ドキドキするの

(15.香織)

 

 

あの事件というか…清水課長の笑顔を見た日から、なんか課長を意識しちゃって…変なの。

もちろん作業中は意識しないように、気をつけてるわよ?

間違ったりしたら大変だもん。もうあんな思いは、したくない!

 

でも…

   休憩時間や昼休みになると、課長の顔がフッと浮かんでくるし…

   課長と仕事の話をしているとき、大きくて綺麗な指に触れたりして…

その度に、ドキッとして顔が赤くなるの。

 

私、どうしちゃったんだろう。もしかして…課長のこと好きになっちゃったの!?

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

昼休み。

「今日は和食の気分かな〜」と言う優希ちゃんと一緒に、蕎麦屋さんへ行った。

 

注文してから…まじまじと優希ちゃんを見る。

 …もう結婚してるんだから、いろんな経験してるよね…

そう思って、昨夜から考えていたことを質問してみた。

「聞いてもいい? 優希ちゃんと旦那さんの馴れ初めって、どんなだったの?」

 

あまりにも唐突な質問だったのか、優希ちゃんは一瞬、返事に詰まったけど…ちゃんと教えてくれた。

でもその内容にビックリして慌てたのは私の方。

「場所も考えずに、こんなことを聞いてごめんなさい!」

自分で質問したにも関わらず、罪悪感で一杯になった。

 

「気にしないで? あのときは、お互いに苦しんだわ。でも…あれが切っ掛けで、『好き』っていう気持ちを認識したのも事実だもん。そして私たちは結婚したの」

「そうなんだ…」

「『もし、あれが無かったらどうなってたか』…なんて、誰にも分からないわよ? ゆっくり穏やかに恋人同士になったかもしれないし、私の片思いで終わったかもしれないし…」

「そっか……はぁ…

「え! 香織ちゃん!? ねぇどうしたの?」

「あのね、私……あの日から清水課長のことが気になって、ドキドキするの。好きになったみたいなの。だから優希ちゃんに相談に乗ってもらおうかなって…色々教えてもらおうかなって…そう思って…」

「参考にならなくて、ごめんね?」

「ううん、私の方こそホントにごめんね? 妹と彼氏のことは時々聞いたりするんだけど、自分が当事者になるのは初めてだから戸惑っちゃって…。どんな行動を取ったらいいのかなって、ずっと考えてたの」

「いいのよ。でも…そっか…清水課長を、ねぇ…」

何やら難しい顔をする優希ちゃんに、私はちょっと不安になった。

 

「…何か問題でもあるの?」

「違うわよ。香織ちゃんのことを、課長に印象付ける方法は無いかな〜って考えたんだけど……あ、そうだ♪ 香織ちゃんの視力は? 眼鏡は外せないの?」

「左右とも 0.1だから…眼鏡が無かったら、外出できないの。コンタクトは入れるのが怖いから、無理だし…」

「じゃあ仕事が終わったら眼鏡屋さんに行って、新しいのを買おうよ♪ 隣のビルに、安くて良い店があるの。私が似合うのを選んであげるから、ね?」

「え…なんで?」

「可愛い顔を隠すのは勿体無いもん!」

 …優希ちゃん、そんなに力を入れて言い切らなくても…

「私、そんなに可愛くないよ?」

「私が『可愛い』って言ってるんだから、可愛いの!」

 

結局、 私は…優希ちゃんに連れられて行った眼鏡屋さんで、ノンフレームの華奢な眼鏡を購入した。

 

「明日からは、その眼鏡をかけてきてね♪」

絶対だよ! と優希ちゃんに約束(強引に!?)されて、帰宅した。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

翌朝。新しい眼鏡をかけて、「チィちゃん、おはよう♪」って言ったら

「カオちゃん、いったいどうしたのよ!」

想像以上に驚かれて、私の方がビビッてしまった。

 

 

「似合ってないの!? 変!? どうしよう……」

「まるっきり逆だから。メチャメチャ似合いすぎて心配なの! 誰が選んだの?」

そう聞かれて…昨日のことを全部、妹に話した。

 

「…納得したわ。でもね、カオちゃんは可愛いから気をつけてよ?」

「そんなことないよ?」

「あのね、今まで内緒にしてたけど、あの眼鏡は『男避け』だったの。カオちゃんは、身内の贔屓目で言ってるんじゃなくって、本当に、可愛いの! ちゃんと自覚してよね? でないと危ない目に遭うよ?」

「うそ…」

「いやホント。変態さんや痴漢に遭うのは嫌でしょ?」

「ぜったい嫌!」

「だったら気をつけてね?」

「うん…。でも気をつけるって…具体的にどうすればいいの?」

「笑顔を振り撒かない。ボーっとして歩かない。隙を見せない。ナンパされたらハッキリ断る。あとは……自分で考えて」

「…笑っちゃダメなの?」

「好きな人に、とびっきりの笑顔を見せたらいいの! そうじゃない人に寄って来られたら困るでしょ? 分かった?」

 …誰も寄って来ないのに、心配性なチィちゃん…

 

な〜んて思っていられたのも、自宅に居た間だけで。

駅へと歩く道、電車の中、ビルに入るまで…ものすごい視線を感じた。

それは会社に入ってからも同様で……

いろんな人から声を掛けられた。今まで全く話したことが無い人からも!

 …周りに人が寄ってくる、って…こうゆうことなの!?

本当に驚いた。

 

 

「眼鏡を替えただけなのに、すごいよな…」

営業の榊(さかき)くんも、ビックリしてた。

榊くんは以前、高峰さんに「『すまない』と思うんだったら、頼まないでくれる?」と言われて固まってた人で…あれから時々、話をするようになったの。

 

優希ちゃんからは「替えて良かったじゃないの♪」って言われた。

なのに…清水課長は何も言わずに私を睨んでいて…。

それが、すっごいショックだった。

 

課長のために眼鏡を替えた、といってもいいくらいなのに。

他の人からは話しかけられて

肝心の課長からは睨まれて…

 

なんで!?

 

★『bitter&sweet』はランキングに参加しています★

 

 

← back    bitter&sweet TOP    next →

- An original love story -  *** The next to me ***

inserted by FC2 system