愛する人と共に

(Wedding 顛末記 7)

 

 

≪新婦・新郎それぞれの控え室にて、友人との再会≫

 

 

ノックの音に返事をしたら、短大時代の友だちが扉を開けて顔を見せてくれた。

 

   同じ幼児教育学科卒の、旧姓 藤森優華(ふじもり ゆうか)ちゃん

   食物栄養学科卒の、山崎詩音(やまざき しおん)ちゃん

   英文学科卒の、小山内由紀(おさない ゆき)ちゃん

そしてもう1人、英文学科卒の長谷陽子(はせ ようこ)ちゃんは―― 先月、旦那様と子どもと一緒に日本に遊びに来たけど―― アメリカに帰っていったの。

だから今日は、3人が…… 

「「「香織ちゃん、おめでとう!」」」

「優華ちゃん、詩音ちゃん、由紀ちゃん、…来てくれて、ありがとう♪」

 

 

「香織ちゃん…天使みたい…。とっても可愛い!」(優華)

「優華ちゃんったら、そんなに煽(おだ)てないでよ。本気にしちゃうよ?」(香織)

「ホントだってば! ねぇ、みんなもそう思うでしょ?」(優華)

「ミニのウエディングドレスなのね。すごく似合ってる」(由紀)

「このフワフワした感じ…今にも羽が生えて、空を飛んでいきそう…」(詩音)

「香織ちゃんがこんなに可愛かったなんて、知らなかったわ…」(由紀)

「みんな、あの眼鏡姿に騙されてたんだよね」(優華)

「え? それって…優華ちゃんは知ってたってこと?」(詩音)

 

 

今日の私は「ドレスで眼鏡はダメなのよ」と言われて…眼鏡をかけていない。

普段、眼鏡は眠るときくらいしか外さないから…とっても心細いの。

だけど「新郎の腕に掴まっていれば問題なく歩けるでしょ?」と返されたらもう…それ以上、何も言えなくなっちゃった。

それで詩音ちゃんと由紀ちゃんは、眼鏡ナシの私とは『初対面』ってことなの。

 …陽子ちゃんも知らないけどね…

 

 

「私たちは中高一貫の私立校でね、その当時から互いに知ってたのよ」(優華)

「でも…『高校のときから同級生』って言ってたんじゃなかった?」(由紀)

「中等部のときは隣。で、高等部の3年間が同じクラスだったの」(香織)

「だから香織ちゃんが眼鏡をかける前の顔も、よ〜く知ってるんだ♪」(優華)

 

話し声は、どんどん大きくなっていく……

 

 

『女3人寄れば姦(かしま)しい』と言うけれど、4人も―― それも久しぶりに会った者たちが集まれば―― それはキャアキャアと騒がしいこと、この上もなく…。

控え室の厚い扉を突き抜けて、廊下まで聞こえていたのかもしれない。

 

「ねぇカオちゃん、あんまり大きな口を開けて笑ってたら皺が残っちゃうわよ? せっかくの可愛い顔が台無しじゃないの。花嫁は大人しくしてなさい!」

「……」

後から入ってきたチィちゃんに言われて、私は慌てて口を閉じた。

 

 

* * * ☆ * * * ☆ * * * ☆ * * *

 

 

ノックの音に返事をしたら、香織の叔父の牧田慎二(まきた しんじ)―― 中学・高校時代の悪友であり、『マキタ電工』の専務―― が扉を開けて入ってきた。

奴は白いタキシード姿の俺を見ると、片方の口端を上げながら近寄ってきた。

 

 

「まさか琢磨が結婚するとはな。それも俺の姪っ子と、だなんて…」

「香織だから…」

「何が?」

「他の女なら、結婚なんて考えもしなかったな。香織だから、『欲しい』と思った」

「オマエな〜〜 …俺は結婚相手の叔父で、取引先の専務だぞ。知ってて尚、その態度と口調は…琢磨らしいというか、何というか…」

「仕事なら、それ相応の態度で接する。だが今はプライベートだろ? 俺にとっては『悪友の慎二』以外の何者でもないさ」

「相変わらず媚びない奴だな」

「媚びる奴の気が知れないな」

「…そんなオマエだからこそ、俺は…信用して一緒に行動していたんだぜ」

「お互いに素性は知らなかったが、な…」

 

 

慎二とは―― 学校は違ったけれど―― あの当時、良く行動を共にしていた。

約束などしなくとも、繁華街に行けば必ず慎二に会えた。

そして俺たちは……悪さばかりしていた。

 …香織には言えない事ばかり、な…

 

 

「あの頃、俺は両親の離婚で荒れていたんだが…慎二も、か?」

「『兄』と慕っていた直人(なおと)さん―― 香織たちの父親だけど―― が姉と駆け落ちして…親父の頑固に拍車がかかり、お袋は心労で倒れて…。あの当時は家に帰るのが嫌だった。『直人さんに裏切られた』という思いもあって、俺は…」

「そうか…」

「姉が何十年ぶりかで家に帰ってきたと思ったら、2人の娘と一緒で…しかも『結婚します』だろ? おまけに相手があの琢磨だと聞いて、本当に驚いたぞ」

「それは悪かったな」

「あんなに可愛い姪っ子たちができたのは嬉しいけど、上の子はもうオマエの毒牙にかかっちまってるのかと思うと泣けてきて――」

「まだ抱いてない」

「え、オマエが!? 嘘だ! …冗談だろ?」

「俺は嘘も冗談も言ってないぞ」

「じゃあ今夜が文字通り、初夜なのか」

「今朝、入籍を済ませた。そして…今夜、香織を抱く」

「オマエ……変わったなぁ…」

「ああ。香織が変えてくれた」

 

 

フッと笑った俺を見た慎二は

「それに…いい顔して笑うようになったんだな」

と言った。

 

 

 

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